前山 研究室

前山研究室(芳香族ポリケトンを広める)


研究紹介


熱に強く、酸やアルカリに侵されない高性能芳香族ポリケトンの開発

   有機材料が本来持っている「熱に弱い」という問題点を克服し、金属材料より軽く、なおかつ、金属材料のように熱にも強く、十分な強度を有する材料の開発を目指しています。ベンゼン環とケトンカルボニル基、エーテル酸素を工夫してつなげることで高性能化が実現します。特に私たちは芳香環の並べ方に一工夫を加えることにより、溶剤可溶性と耐熱性を併せ持つ「ポリケトン」、さらには水に溶け水性塗料として使うことができる「ポリケトン」の開発を行っています。また、新しい有機反応を用いる芳香族ポリケトンの合成にも挑戦しています。さらには、加熱時に膨張を極力しない(寸法安定性に優れた)高分子素材の開発を行っています。また溶剤可溶性ポリケトンの塗膜後の不溶化に関する検討も進めています

2.芳香環(ベンゼン環)どうしを効率的につなぐ高活性・高速重合金属触媒の開発

  鈴木章先生が開発された「鈴木-宮浦カップリング反応」は、原料の取り扱いやすさ、反応性の高さなどの点で機能材料の合成手法に広く用いられています。しかし、芳香族ポリケトンの合成に適用するには反応性が十分でなく、高分子量体を得ることができませんでした。我々のグループでは大阪大学・櫻井グループとの協力研究を通して、鈴木-宮浦カップリング重合に用いる「高速・高活性」重合触媒を開発しました。現在、さらなる反応活性の向上を目指し研究を行っています。この合成技術を「鈴木-宮浦カップリング重合」以外の系
への展開を現在さらに試みています。このことにより、これまでは合成することが困難であった、様々なπ共
役系高分子の合成が可能になりました。
 また、芳香族ポリケトンが酸やアルカリに強いことを活かし、高分子不斉触媒や配位子を開発し、左手と右手の化合物を作り分けることができ、使用後に回収可能で何度でも再利用できることを目指し、研究を進めています。

3.耐熱性と十分な溶剤可溶性を併せ持つ芳香族ポリケトン透明材料の開発

  私たちの開発してきた材料も含め、芳香族ポリケトンは優れた耐熱性を溶剤可溶性を併せ持っていますが、黄色〜茶色に着色しています。熱に強い透明フィルムの需要が極めて高い社会的要求に応えるため、芳香族ポリケトンの透明材料への展開を目指し研究を進めています。様々な分子ユニットを導入することにより、これまでの芳香族ポリケトンよりも無色に限りなく近い高性能材料を開発しました。さらなる無色透明性の向上、さらには光学的性質に基づく諸物性の改善を目指し研究を進めています。
 

4.芳香族ポリケトン複合材料の開発
  芳香族ポリケトンは熱に強く、さらに私たちの開発しているものは溶剤可溶性を有し、ウエットプロセス(溶液からフィルムを作製するアプローチ)により、薄膜を作製したり、ガラス基板/ステンレス基板へのコーティング(塗膜)を行うことで絶縁材料を作製したりしています。このとき、芳香族ポリケトンとは異なる物性を有するエンプラとの共重合体(複合材料)を開発することにより、互いの長所が活かされた新素材の開発に取り組んでいます。例えば、接着性に優れた「芳香族ポリケトン」の分子内に、非粘着性を有することが知られているパーフルオロアルキル(アルキレン)単位を導入すると、基板にはよく接着するけど、塗膜表面は水や油をはじき、汚れにくくなる新素材の開発を行っています。

5.芳香族ポリケトンを基盤とする蛍光特性を示すπ共役系高分子の開発
   芳香族ポリケトン骨格に共役芳香族構造、C-C二重結合、C-C三重結合などのπ共役構造を組み込むことで、共役長をあまり拡張しなくても蛍光特性を示します。それは、主鎖に存在するケトンカルボニル基が電子不足単位(アクセプター)としてふるまうことで、電子供与単位(ドナー)の適切な導入により、ドナーアクセプター効果が働くからだと考えられます。ケトンカルボニル基やエーテル酸素を主鎖に導入することで得られる一連の交差共役型π共役系高分子の光学的特性、蛍光特性を調査し、その性能向上を図ります。

6.耐熱性と十分な溶剤可溶性を併せ持つ高分子素材の開発(芳香族ポリケトン以外)

    私たちがこれまで展開してきた溶剤可溶性芳香族ポリケトン開発における知見を活かし、他材料、なかでも溶剤可溶性に乏しい高性能材料への溶剤可溶性の付与を目指し、熱に強く機械的強度にもすぐれているけど、有機溶媒に溶解し塗料として利用できる新素材(ポリウレタン・ポリウレア・ポリアリーレンエーテルなど)の開発を進めています。

7.選択的なイオン(アニオン)や有用物質の選択的分離を志向した有機高分子ゲルの開発

   金属イオンの捕集材料はこれまで数多く開発されてきているのに対し、アニオンや生体分子等の有機分子の選択的捕集が達成された例は多くありません。私たちは、適切に分子デザインされた捕集サイトを有するモノマー、ベースモノマー、架橋剤を用いるラジカル共重合により捕集サイトを有する有機高分子ゲルを作製し、その捕集挙動の追跡を行っています。近年、その中でもその重要性が増しているフッ化物イオンの捕集剤開発を行っています。私たちの開発した高分子ゲルを使うと、F,C,Brイオン共存下の溶液からFイオンのみを効率的にかつ選択的に取り出すことができます。